「日本が売られる」について(書評)

 

 国際ジャーナリストとして活躍されている堤未果さんが書かれた、「日本が売られる」を読んでみました。

 本というものは大体2種類に分かれていると思います。面白くて続きが早く読みたい!と思う本と、つまらなくて、もう読みたくない!と思う本です。しかしこの本はどちらでもありません。面白いのに、もう読みたくない!と思わせる内容になっています。それはまさに、日本が売られる過程、我々の生活の基盤が切り崩される過程がこの本では書かれており、もうやめてくれ!聞きたくない!と思うからなのでしょう。でも、それから目をそらすことはできません。

 この本では、上記の通り日本が売られる過程が書かれており、様々な部分の「日本」が売られていく様を記述していますが、その中でも最も印象的な「水」に絞って紹介してみたいと思います。

水が売られる

 水を国民に提供する「水道」は、命のインフラであり、利益を出そうとするものではありません。採算が取れなくても、赤字でも、人々の命を守るために公によって運営されるべきものです。しかし、1990年代から、世界では水道の民営化が本格化します。〈民間企業のノウハウを活かし、効率の良い運営と安価な水道料金を!〉

というスローガン付きで導入された水道民営化は、このスローガンとは全く逆の結果をもたらすことも珍しくありませんでした。主に下記の五つの問題点が噴出したのです。

  1. 水道料金高騰
  2. 財政の透明性欠如
  3. 公営が民営企業を監督する難しさ
  4. 劣悪な運営
  5. 過度な人員減によるサービス低下

こうした問題を受けて、再公営化しようとする動きもあります。しかし、そこに待っているのは企業からの莫大な請求書で、数十億単位の違約金を払ってやっと再公営化しています。これでは何のために民営化したのかわかりません。

 このような動きを受けて、民営化は2005年以降下火になるのですが、その流れに逆行して水道を民営化しようとする国が現れました。そう、日本です。

 日本は災害が多く、外資も参入しにくいという背景から民営化から逃れてきましたが、自治体が水道を所有したまま、民間企業に運営を委託する「コンセッション方式」によって、破損した水道管の修理は自治体と企業で折半し、利益だけは企業がとれることとなり、外資が参入しやすくなりました。しかし、議会で水道民営化が否決されることが多く、(利益を企業に誘導できず)困った政府は、企業に運営権を売った自治体は、地方債の元本一括繰り上げ返済の際、利息が全額免除される法律を可決し、その後には、議会の承認不要で運営権を売れるようにお膳立てをしました。さらに、水道料金の値上げを企業が正当化できる「水道法改正案」も、オウム真理教麻原彰晃らの死刑執行の陰に隠されて国民の目には届きませんでした。

ここから見えてくることとは

 上記の事実から見えてくることは、我々が政治に無関心である限り、政府の暴走を止めることはできない、ということです。私は恥ずかしながら、この本を読むまで日本でこうしたことが起こっているとは全く知らない状態でした。しかし、無関心で、何も知らないことで生じる不利益は全て自分に降り注ぎます。政治は気候変動対策と同じで、自分一人の行動によって何になるのか?という思いによってすぐに関心が薄れ、行動できなくなってしまいます。ですが、だからと言って何も考えず、何もしなくてよいわけがありません。それこそ日本を売る側の思うつぼです。それに正しく対抗するには、事実、真実を見極め、それをもとに判断し、行動するしかありません。そして、その最初のステップの真実や事実を「知ること」は、この本を読み、内容を批判的に読むことで達成できるはずです。行動は、その次です。先ずは知ること、それが大切であると思わせる、そんな一冊でした。